仮説の精度を上げる「要求定義前UXリサーチ」のススメ

皆さまこんにちは。
ルート・シー CDOの小澤です。

弊社の案件において、UXリサーチを検証用途だけでなく要求定義※の前に行うケースが増えてきました。

戦略や具体的な戦術の検討からルート・シーにお声掛けをいただく場合に「そもそもどんな戦略を立てるのが良いのか」という仮説設定のためにインタビューやアンケート、ワークショップなどのUXリサーチを行い、要求定義を行うというプロセスを採用するケースが多々あります。

最近ではリサーチの対象がサイト利用者だけでなく運用を行う自社内スタッフまで及ぶケースも見受けられます。「ユーザー」だけでなくより広い対象に向けた具体的なプロセスについての議論が自然になってきている印象を受けており、要求定義前のUXリサーチの需要の増加もこのような変化と無縁ではないと考えています。
「UX」という対象についての議論から、具体的に「UXD(User eXperience Design:ユーザー体験設計)」の実践に多くの企業が取り組むようになっているということですね。

今回の記事ではそういった背景も考慮しつつ、サイトやコンテンツのリニューアルを検討されているご担当者さまに向けて、要求定義前UXリサーチの効果と実施例、社内理解の促進方法や実施時のポイントについてご紹介していきたいと思います。

※要求定義:ビジネスや業務の課題を解決するためにシステムに求める事柄について、発注者(おもに非技術者)の目的・ニーズ・要求を具体化する行程

要求定義前UXリサーチの効果

UXリサーチといえばユーザビリティテストを思い浮かべる方も多くいらっしゃるかもしれません。ユーザビリティテストは主にUI/UXの適性を検証するためのもので、下記の「UXの5段階モデル」と呼ばれる図※の上から2~3段階目が対象となっています。
左端の矢印を見ていただければお分かりになるように、この段階は5段階の中では後半です。そのため、この段階で戦略レベルの方向転換の可能性が見つかってもそう簡単には後戻りできず、制作物の規模が大きければ数年後まで対応が見送られることになりかねません。

日経クロステック『その画面遷移は大間違いかも、「5階層モデル」で臨むUXデザイン』より引用

一方、要求定義前のUXリサーチではユーザーインタビューやデスクリサーチを行い、その分析結果を元に「今回のサイト(コンテンツ)改修は何のために行うのか」というイシューを要求定義に反映します。

戦略の検討段階(上の図の最下層)でUXリサーチを行うことは、早い段階で「ユーザーが本当に求めていることは何か」「どのようなユーザー体験を設計するのか(UXD)」という点に対する仮説の精度を高められ、より優れた戦略の選択につながるのです。

またこれにより早い段階で関係者間で認識を揃えられるため、同じ方向を向いてプロジェクトを進められやすくなるのも、プロジェクト担当者にとっては心強い要素と言えます。

※Jesse James Garret氏がおよそ20年前に提唱した“The Elements of User Experience”

どんな場合に要求定義前のUXリサーチが有効?

ここからは実施例をご紹介しながら、どんな場合に要求定義前のUXリサーチが有効かお伝えしていきます。

実施例)某メーカーさまイントラサイトの例

企業内で使用するイントラサイトで、要求定義前UXリサーチを実施する場合もあります。

とある企業で複数事業部横断で使用するイントラサイトのリニューアルを行うにあたって、定量的な利用データは担当部門で把握をしているものの、各事業部のスタッフの利用目的や行動実態といった定性的な情報が足りないという課題がありました。

こういったケースに力を発揮するのがユーザーインタビューです。
ルート・シーのUXリサーチャーが行うのは主に「半構造化インタビュー」と呼ばれる手法で、基本的な質問をベースにインタビュイー(インタビュー回答者)の行動パターンやその背景・心理を深掘りしていくため、定量的な調査では分からない情報を入手することができます。

Google Analyticsなどの各種定量分析ツールで分かるのは主に「結果」で、その「原因」を明らかにするには定性調査が有効です。(下図)

要求定義前の段階で「結果」をもたらしている「原因」の情報も得ることで、より解像度高く戦略を立てることができるのです。

この事例の場合はスタッフの在籍年数や部門によってイントラサイトに求める要素の違いが見受けられ、外部環境変化とも照らし合わせて分析することでイントラサイトにスタッフの皆さんが求めている要素が明らかになりました。
この導出をお客さまを含めたプロジェクトメンバー全員で行い、「今回のリニューアルによって何を目指すのか」という根本方針を立て要求定義に反映したことで、同じ方向を向いてローンチまで走ることができたのも大きな成果でした。

要求定義前のUXリサーチは、このように日頃の分析が定量データでのみに留まっているケースや、関係者間で「今回のサイト(コンテンツ)改修は何のために行うのか」というイシューが共有できていないというケースには有用だと言えるでしょう。

社内理解の促進方法

とはいえ日頃からUXDについて担当部門で扱っていないという場合は、急に戦略レベルの話を持ち出すのはハードルが高いかもしれません。

UXリサーチで得られる効果の共有

そのような場合は、これまで述べてきたような効果の説明と合わせて、「そもそもUXリサーチでどんな効果が得られるのか?」という下記の記事をセットで共有いただくのが良いかもしれません。

関連リンク
UXリサーチで得られるwebサイトへの3つの効果

更に「リニューアル時にこれまで採用したことがない手法をいきなり採用するのは…」と社内で渋られてしまうというケースもあるかもしれません。
その場合は少ないコストでスモールスタートから始め、理解を得ていくのも策です。

スモールスタートなら「簡易ユーザビリティテスト」

下記の記事では比較的少ないコストで簡易ユーザビリティテストを行うケースについて紹介をしています。

関連リンク
【UX手法】簡易ユーザビリティテストのススメ「webサイト・アプリ定性評価でユーザーの心を理解する具体的方法」

既存コンテンツで簡易ユーザビリティテストを行い、これを実績として社内の理解を得ていき、大きな改修で要求定義前からUXリサーチを導入すると社内理解が得られやすくなるかもしれません。

実施におけるポイント

社内の理解も得られ、なんとかUXリサーチを実施できそう。
そんな時のために、意外と忘れてしまいがちな大事なポイントをお伝えしたいと思います。

インタビューやワークショップなどのUXリサーチ実施時のポイント。
…それは「ドキュメンテーション」で、実は実施内容と同じくらい大事なものです。

UXリサーチは定性的なものであるため、「いつどのような調査が行われ、どのような分析結果だったか」の共有が難しいものでもあります。
そのためしっかりとしたドキュメントが残っていればエビデンスとして長期的に機能し、インタビューやワークショップが行われた場に同席しなかった人にも価値を伝えることができます。

関連リンク
関連リンクイベントで終わりにしない、改善プロセスとして「使う」UXワークショップの極意

ルート・シーのUXリサーチではインタビューやワークショップの成果物として報告書を含めることも可能ですので、ご安心ください。

最後に

今回は仮説の精度を上げる「要求定義前UXリサーチ」についてお話をさせていただきました。

UXDは「ユーザー体験の設計」ですから、設計の妥当性はローンチ後のユーザー利用を通じて明らかになっていくものです。戦略を立てる段階から始まって実装後も継続的に検証し続けることで、よりよいUXDを作り上げていくことができます。

そのパートナーとして、もしルート・シーをお選びいただければ、御社内での理解促進のためのワークショップや社内プレゼンテーションのフォローなど、ユーザー体験を上げていくための活動に伴走します。
ぜひ、お気軽にご相談ください。

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